貴女が涙を飲んだワケ

6/33
前へ
/33ページ
次へ
だからこそ、だからこそ。 今日の慎さんが、心臓がきゅんきゅんするくらい可愛かったとしても。 無防備な時こそ、怖がらせてはいけない。 それは重々、わかってんだけども。 つい、我慢ができなくなってそろそろと手を伸ばす。 緩いウェーブの髪は、灯りを反射して光沢のある絹糸のように見えた。 触れると指先に見えた通りの、艶やかな感触を残す。 頬に落ちる、長い睫毛。 薄桃色の少し開いた唇に目を留めると、今日、その唇で手に触れてくれた時の感触を思い出した。 彼女が初めてくれたキスは、手から心臓まで直撃し今も脳裏と肌にはっきりと残っている。 簡単に理性も吹っ飛ばしそうな威力だった。 実際弱ってる時でなかったら、きっと 捕まえて、ベッドに引っ張り込む勢いで抱き寄せて、ほんで……。 あ、やべ。 またドキドキしてきた。 これ以上触ったら止まれなくなるちょっと落ち着きたまえ俺。 しゃがんだまま頭を抱え、慎さんの姿を見ないようにして深呼吸。 つい最近もこれやったな。 慎さんの部屋で。 俺が寝てると思って気を抜いたのか、ぴったり寄り添って眠る慎さんが可愛くて可愛くて。 ベッドにそろっと運ぶ時、抱き上げる前に必死で深呼吸した。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

505人が本棚に入れています
本棚に追加