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―――神崎さんと友達になれるなんて、嬉しーっ
ふ、と、急に思い出されたセリフに目を開けた。
え、何で今、あのひとを思い出したのか。
いくら女友達という存在が居ないからといって、さすがに彼女はない。
事実そのセリフを言われた時だって、内心『え?』と首を傾げただけだった。
……いや、しかし。
思い直して、枕元に置いていた携帯電話を手に取りアドレス帳を開く。
画面を指でスライドさせると、すぐに出て来た『翔子』という名前。
……友達。
彼女が僕と友達になれたと喜んだのは、一人で来店して僕に謝罪をしてきた日だった。
僕が男と偽ってるなんて彼女が知る由もないのは当然のことだ。
別に謝ってもらいたいとも思っていなかったけれど、その謝罪に僕は少し、好感を持ってしまった。
だからこそ、その後も陽介さんの元恋人である彼女が店を訪れても、それほど狼狽えることもなく接客出来ていた。
いろんな面に関して、確かに彼女は随分無神経に物を言うところはあるけれど、あの時の謝罪には男と偽る僕を面白がる素振りも、それ以上を知りたがるような素振りも欠片もなく、謝罪以上の何の匂いもしなかった。
かといって、ほぼ強引に交換させらたこの番号にかけるつもりなど、毛頭なかったけれど。
今現段階では彼女だけだ。
僕を女だと知っていて、尚且つ友達だと言ってくれた人間は、彼女しかいなかった。
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