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母親がそう言いながら、ぎっしり詰まった重箱の最後の隙間に伊達巻を押し込んだ。
「最近は、結構食べてる。あの人がちょいちょい買ってきたり食べに連れ出したりするから……ねえ、これ持って新幹線乗るの嫌なんだけど」
「ちゃんと紙袋に入れてわからんようにするわよ。食べきれへんかったら陽介さんと一緒に食べ」
「良い人そうで安心したわ。まこくんのことちゃんと女の子扱いしてるし」
姉の言葉に、急に照れくささを感じて、手持無沙汰の手が皿に残っている伊達巻の切れ端を一つ、つまむ。
「……僕のこと女の子扱いするのはあの人くらいだよ」
懐かしい、手作りの伊達巻の味は、敢えて遠ざかるようにしていたこの家との距離を少しだけ、縮めてくれたような気がした。
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