誘惑

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「じゃ、これ持って。中に化粧直しの道具も入ってるからね」 「は、はい」 「鼻がテカってきたらコレ使って」 「て、てかる? ……わかりました」 翔子からパーティ用の細長いバッグを渡され言われるままに頷いて、慎さんがよろよろとこちらに向かって歩いてくる。 ヒールに慣れてないのが丸わかりで、慌てて近づいて腕を取った。 「すみません」 「いえ、全然」 「……ほんとに変じゃないですか」 「綺麗です。傍にいるのも緊張するくらい」 「あ、貴方はなんでも『可愛い』『綺麗』って言うから」 「嘘は言えないっすもん、綺麗だから綺麗って言うだけで」 「そんなこと」 「あのさー。いちゃついてないでさっさと出ようよもう。私も今日は予定あるんだって」 目の前で「綺麗です」「そんなこと」を繰り返す俺と慎さんに翔子が呆れた視線を向けながら、メイク道具をバッグにざかざか詰め込んでいた。
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