誘惑

23/29
前へ
/29ページ
次へ
店の戸締りをして車で翔子を送ってから、再出発した。 「二時間くらいで着きますけど、披露宴は昼過ぎてからだし、ゆっくり行きましょうか」 「そうですね」 狭い空間で、着飾った慎さんと二人きりというだけで異様に緊張してしまって、つい無意味に空調調節をしたりカーステを弄ったりしてしまう。 彼女もやはり落ち着かないのか助手席でソワソワして、どこか上の空だ。 「ドライブデートですね!」 「ほんとに変じゃ……」 「大丈夫、綺麗です」 その質問、向こうに着くまでに何回出るだろうか。 だけど、身形の心配をしているくらいの方が、気が紛れてちょうどよいのかもしれない。 だが、明らかに彼女の表情が青ざめ始めたのは、会場であるホテルに着いた時だった。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

457人が本棚に入れています
本棚に追加