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洗面所の冷水で顔を洗ってそれでも足りなくて、流しに頭から突っ込んだ。
やっちまった、なにやってんだ俺。
今まで怖がらせないように、安心してもらえるように、それを一番に考えてきたのに。
震えて強張った慎さんの手を思い出して、激しく後悔する。
なのに、キスの余韻を色濃く残したあの表情が頭から離れなくて、しばらく流水の中から抜ける事ができなかった。
結局十分ほどの時間を洗面所でやり過ごし、ようやく冷静になったところで備え付けのペーパータオルで簡単に頭を拭いて、そろそろと店に戻る。
「……慎さん?」
彼女は、カウンターのスツールに腰を預けてぼんやりとしていて、俺の声でぱっと顔を上げた。
そして目を見開くと「何やってるんですか貴方は!」と怒りながらカウンターからタオルを取って近づいて来る。
もう、さっきの余韻はなくなっていて、ほっとした。
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