誘惑

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「屈んで!」と言われて少し頭を下げると、ぼふっとタオルを被せられてごしごしと髪を拭いてくる。 若干乱暴なのは、さっきの俺の行いを怒っているからだろうか。 それでも、慎さんの方から近寄ってきてくれて、嬉しかった。 距離を置かれてしまっても仕方ない、また最初からだと覚悟したけれど。 「頭冷やすって、ほんとに水被る人がありますか。この真冬に」 ぽん、とタオルの上から頭を叩かれた。 タオルを首にかけ直して顔を上げると、目が合った。 「何、情けない顔してるんですか」 「……さっきは、すんません」 キスについ、夢中になって。 慎さんに何の気遣いもなく、暴走してがっついてしまって。 貴女に、怖がられたくない。 それが一番、俺には大事なことなのに。 頭を下げた俺を、彼女は怒るでもなく、苦笑いをする。 ただその表情が一瞬、すごく寂しそうに見えて戸惑った。
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