誘惑

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何を言えばいいのかわからない。 どうすればいいのかわからないけど、ほっておいたらいけない気がする。 慎さんを追いかけてカウンターの中まで入って行くと、彼女がふいに振り向いた。 「陽介さん」 「え、はい!」 「ここ、開けてくれませんか」 徐に指差されたそこはカウンター上部の引き戸で、確かに彼女の長身でも届かないことはなくても少し辛そうだった。 「ここですか」 「はい、中に大きめの鍋が入ってると思うんですが」 「どうぞ」 言われるままに引っ張り出した鍋は圧力鍋で、鍋にしては重い。 なんでこんなもんがこんな高いトコに上げてあるんだ……じゃなくて! 何もなかったかのように流れてしまった話を、戻さなければと焦って彼女に話しかけるけど。 「あの、慎さん」 「助かりました。普段鍋なんて使わないのでしまってあったんです」 いつになく柔らかく笑った彼女に、もう謝るなと言われている気がした。
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