誘惑

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鍋を流しに置くと、彼女は冷蔵庫を開けて中を確認して、俺はその後を微妙な距離を開けたままついて回って。 「ちょっと、買い物に行こうかな。作るには、材料が少ない」 「スーパー行きますか」 「はい。一緒に行ってくれますか」 「勿論です!」 勢い込んで返事をした。 荷物持ちでもなんでも、行かないわけがない。 「じゃあ、その前に髪を乾かして」 「すぐ乾きますって」 「また風邪ひきたいんですか」 と、目を細めてそう言われ、年末に迷惑をかけた俺としては大人しく黙るしかない。 正面に立つ彼女が俺に向かって手を伸ばし、湿った前髪を指で抓む。 それからぽそ、と小さな声で呟いた。 「いやなわけじゃないんです」
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