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早く、帰ろう。
そう思い陽介さんの姿を探すけど、やはり見つからない。
確か、フロントに近い方にもお手洗があったから、もしかすると僕を探してそちらへ向かったのだろうか。
痛む足を若干引きずりながらもロビーを抜けて、最初にこの階に着いた時の柱の影を見つけ一旦その場に落ち着く。
携帯をバッグから出そうと俯いた時、綺麗に磨かれた革靴が目に入った。
すぐに陽介さんのものではないと思ったけれど、顔を上げる前に僕の名前を呼んだその声に、固まった。
「真琴」
間近で声を聞く。
僕を追いかけて走ってきたのか、息切れの混じるその声が。
六年前の、僕の耳の傍で繰り返された荒い息遣いに重なった。
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