夜と傷と、

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目が合ってなぜかわからないが篤が安心したような顔をして、僕は反対に眉を顰める。 「……女の格好しとって、安心した」 『お前が、女みたいな顔をするから!』 そう言って僕を罵ったくせに、同じ声と顔で正反対のことを言う。 「俺、お前に謝りたくて」 謝る。 今更? 月日が過ぎたから、今なら謝れる? 僕が女の格好で現れて、もう昔なんて引きずってないと安心したから? 自分は全部忘れて普通に恋愛をして子供作って、幸せな結婚をするから? だから今更、都合よく謝りたいのか。 今なら謝れそうな、雰囲気だから。 「…………別に、今更」 恐いと感じる場所とは別のところで、怒りの感情が湧き出てくるのがわかる。 ようやく絞り出した声は、擦れて震えていた。 なのに篤は、僕が使った『今更』という言葉をいいように解釈したらしい。 「だよなあ、もう六年も経つし。でも俺としては、ずっと引っかかってて」
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