420人が本棚に入れています
本棚に追加
目が合ってなぜかわからないが篤が安心したような顔をして、僕は反対に眉を顰める。
「……女の格好しとって、安心した」
『お前が、女みたいな顔をするから!』
そう言って僕を罵ったくせに、同じ声と顔で正反対のことを言う。
「俺、お前に謝りたくて」
謝る。
今更?
月日が過ぎたから、今なら謝れる?
僕が女の格好で現れて、もう昔なんて引きずってないと安心したから?
自分は全部忘れて普通に恋愛をして子供作って、幸せな結婚をするから?
だから今更、都合よく謝りたいのか。
今なら謝れそうな、雰囲気だから。
「…………別に、今更」
恐いと感じる場所とは別のところで、怒りの感情が湧き出てくるのがわかる。
ようやく絞り出した声は、擦れて震えていた。
なのに篤は、僕が使った『今更』という言葉をいいように解釈したらしい。
「だよなあ、もう六年も経つし。でも俺としては、ずっと引っかかってて」
最初のコメントを投稿しよう!