夜と傷と、

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ほっとしたような表情を浮かべる、その軽々しい口調にかあっと頭に血が上った。 「その割に……デキ婚って聞いたけど」 「あ、いや。まあ、それはそれで。気になってたのはホントだって」 伝わらない。 結局、こいつにとっては「気になってた」程度のことで、僕がどれだけ引きずったかなんて全く理解してない。 多分、言葉で言っても本当には理解しない。 未だに僕は『普通』のことすらできないことを、知ったところできっと彼は理解しない。 悔しくて目頭が熱くなるのを、こんな奴の前で泣いたりするもんかと、強く唇を噛んだ。 篤は、そんな僕には全く気が付かないらしい。 気恥ずかしそうに何かを言いかけたけれど。 「あの頃さ、俺、ホントはお前が」 「聞かなくていいっすよ」 その全てを遮断するみたいに、後ろから伸びてきた片腕が僕の頭を丸ごと抱き込んで、耳と視界を覆った。
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