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どくどくどく、とどちらのものともわからない心臓の音が聞こえるばかりで、陽介さんからの返事はなく背中に手が回されることもなくて。
心許ない、固まった空気を砕くように、バッグの中で振動音を鳴らす携帯に邪魔をされる。
「ちょ、ちょっと待って。姉です、多分」
慌てて身体を離し、気恥ずかしさを誤魔化すように背を向けて電話に出た。
『遅い! もう始まってまうやんかー!』
電話越しに急かされて、慌てて会場の方へと向かう。
すると、こちらに向かって一生懸命手を振る姉の姿が見えた。
早く早くと手招きされて、急ぎ足で近づく。
といっても、慣れないパンプスでそれほど早くもないけれど。
「すんません、車が混んでて中々」
後ろから陽介さんがそう言い訳をしてくれた。
「仕方ないけど、早う受付行って! 篤くん、さっきまでここら辺で挨拶したりしとってんけど……」
「ええよ、式で顔は見れるんやし」
寧ろ、直前になれば忙しいだろうと狙ってギリギリに来たんだし。
早く早くと急かす姉の足元近くで、ふわふわのドレスに頭の天辺にお団子で可愛らしく纏めた佑衣が、僕を見て愕然と立ち尽くしていた。
「佑衣、可愛いね。どうかした?」
「……まこくんが、女の人や」
「あほやな、まこくんは最初から女の子やで。でも驚いた、ちゃんと女の子に見えるやん」
「余計なお世話だ」
と、言いつつ少し安心した。
この二人から見ても、僕は一応女に見えるらしい。
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