夜と傷と、

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退場で並んでいると、出たところで新郎新婦がゲストに一人ひとり挨拶しているのが見えた。 「姉さん、お手洗い行ってくるから」 「えっ? ちょっ、いいの?」 「また改めておめでとうって言うよ」 篤の顔がはっきりと見えるくらいに近づいた時、姉に適当なことを言って列の横をすり抜ける。 視界の端に篤の顔が見えたけど、彼が気付いたかどうかはわからない。 意外に穏やかに乗り切ることができたけれど、流石に間近で目を合わせて、言葉を交わすことはしたくなかった。 ロビーを陽介さんの姿を探しながら通り抜け、人が多くて見当たらなくてとりあえず一度トイレに向かう。 パウダールームは隣と仕切りがしてあって、少しだけ気が抜け、途端に身体が重く感じた。 女の格好って、疲れる。 肩とか、なんか窮屈だし、殆ど歩いてないはずなのに、ヒールの踵とか足の裏が痛い。
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