優しさを君の、傍に置く

14/40
前へ
/40ページ
次へ
最初は殆ど一目惚れみたいなものだった。 バーテンダーとしてカウンターに立つ慎さんは、格好良くて綺麗で仕草もスマートで女の子が憧れるのもよく分かったし、男から見ても「いい男」だった。 すっと伸ばした背筋が綺麗で、あんな洒落たバーでどんな客とも気後れせず話し相手をするとこなんて、年下とは思えないくらい貫禄があった。 だから、未だに俺も敬語が抜けないんだろうか。 だけど、バーテンダーじゃない素の慎さんを少しずつ知って、そこからまた少しずつ、殻に皹が入って。 ぱらぱらと剥がれ落ちて、そこにいたのは普通の女の子だった。 繊細で臆病で、ちょっと融通が利かなくて、強がって見えて実はコンプレックスの塊で、素直じゃないけど優しくて、甘えん坊で泣き虫でちょっと癇癪持ちの。 傷ついた女の子だった。 どこに惹かれたかって言われるとわからない。 その全部が可愛く思えたし、守らなくてはと思った。 知れば知るほど、好きになる。 店では男で通しているから、誰彼構わず俺の恋人だと自慢するわけにはいかないけれど……いや、俺はいいんだけど彼女の仕事の障害になってはいけないし。 そんな秘密も、彼女の本質を知るのは俺だけだ、と思ったら優越感は生まれる。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

497人が本棚に入れています
本棚に追加