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「俺、中学から生葬社で働いて学費を稼いでいた。俺の能力はね、異物(インプラント)の中身が見えるということだよ。だから、生葬社からの依頼を今も受けている」
儀場は、被害者の異物(インプラント)などを春道に解析依頼するのだそうだ。
「俺の中身も見えますか?」
「遊部君、生きた異物(インプラント)なのか……」
春道の目が優しかった。
「そうか、だから俺は惹かれたのか。遊部君の中身は、透明な海みたいだよ。光を取り込むと、ケラケラと笑う海で、幼い子供のようだ」
どす黒い思いや、悲しい事ばかり詰められた異物(インプラント)も多い。その中で、光ばかり集めて、楽しそうな異物(インプラント)が俺であった。
「バカみたいな存在ですね、俺」
「いや、褒めたつもりだったけどね。俺、死んだ人の異物(インプラント)しか、中身は見えないからさ。遊部君のは生きているでしょ、本当は見えていないけど、感じる」
話を聞いてみると、春道も苦労の多い人で、自分で学費を稼いでいたり、早くに家族を失ったりしていた。かなり昔から、春道は比奈と二人で生きてきたのだ。
年齢を聞くと、春道は俺の二歳年上であった。
「そういう訳で、捜査、協力してやるから、明日もおいで」
春道が手を振って俺を見送ってくれた。俺も、根拠はないが、春道が嘘は言っていないと信じられる。
「明日来られるかは、分かりません」
春道の視線を避けて、走る様に町中を抜けていると、人が冷たい目で俺を見ていた。そういう目には、俺は慣れている。ど田舎で、外国人のような容姿で日本人であったのだから、大人は皆冷たかった。子供でも、大人の影響で俺を避ける者も多かった。罵倒も山のようにされていた。
でも、時折、春道のように、真っすぐに見てくれる人もいる。そういう人と出会うと、心が温かくなる。
自動販売機で飲み物を購入しようとすると、隣に老婆が立っていた。
「買ったら、さっさと帰って」
土地に悪い事があると、すぐによそ者のせいにされる。閉鎖された土地では、変化が、悪を呼ぶと思うものだ。
俺が観光客であったのならば、まだ優しくできるのだろうが、山に新しい人が住み始めたと、後ろで呟かれていた。
俺が、ため息をつきつつ歩き出すと、戸が次々と閉まっていた。
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