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時計を見ると、一時であった。この工場は人が住んでいる町からは、かなり離れている。焚火を見つけて心配して来たのではない。ここで、何かしているのだ。
俺は、身の危険を感じ、そっと二階の窓から外へと降りた。山では、歩くと音がたつ。小路から道路に抜けたが、車は無かった。海を確認してみると、船が止められていた。船にも人影があるので、道を歩くというわけにもいかない。
これは、密輸のようなものではないのか。日本語ではない言葉も混じって、声が聞こえていた。
この島の島民もグルの可能性が高いので、このまま道を進むのは危険であろう。俺は、再び山に戻ると、人影を避けて越える事にした。
早朝、岩城の工房に戻り、そのまま土の切り出しに入った。見知らぬ車が、工房の近くに来ていて、中を確認している。俺が、一輪車で横切ると、顔を隠していた。
工房で、岩城の姿も確認したのか、車は去って行った。
「遊部君、あれは何かな?」
俺は、山を越えてきたので、土まみれ汗まみれであった。
「島の反対側の工場の廃墟には、人の出入りがありました。密輸でしょうか?」
「ああ、そうなのか。そんな噂もあったけどね……」
岩城が遠くを見ていた。
俺は服を脱ぐと洗濯機に放りこみ、庭のホースで体を洗った。
「男の子だね。豪快に水を浴びるよね」
暑かったのだ。
「……予測は立てました。島民の言う崖、それは工場の廃墟から一キロほど離れた場所にある丘でしょう」
道路が内側に入り込み、海側に丘がある。その丘の先は崖になっていて、落ちると海になるはずだ。確認は出来なかったが、この島の地形は山の上から見た。
「飛び込みの丘か。この島は昔、工場で働く人の子供もいたので、小学校が今の反対側にあったらしい。その子供たちが、飛び込んで遊んでいたという丘がある」
多分、安理子は俺と同じように工場の廃墟付近で追いかけられて、道に逃げたのだ。道は山側が急斜面になっている箇所が多く、車とかで追われたら、道路から海側にしか逃げられない。安理子は、丘に追い詰められて崖から飛び込んだのだ。
「自転車、ありませんか?」
「ないよ。ここ坂が多くて走れない」
又、山を越えるしかないか。でも、工場の廃墟には暫し近寄らないほうがいいだろう。
道を走ってゆくか。この島にいたら、体力がつきそうであった。
「……間を置いてごらん。遊部君、かなり疲れているでしょ」
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