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第一章 海底の町
漁船のような乗合船に乗り込み、一人甲板に出た。これから行く島の方向をナビで確認してみると、沖に浮かぶように黒い影が見えた。遠くから見た島は、手の平に乗るくらい小さい。
船に揺られて三十分が経過した。島は、遠くから見ていたので小さいのだと思っていたが、近付いても一向に大きくならず、到着すると更に小さく感じた。こんなに小さな島にも、人が住んでいた事に驚く。港で乗合船を降りると、港の正面の道は急な登り坂になっていた。
島の中央は、山になっていて島の外周を走る一本の道以外は、坂道しかない。
手に持った地図を見ると、港から一本道であった。でも、それが登りとも下りとも、地図にはなかった。
漁業を生業としている者の多いこの町では、家は崖のような急な坂に、貼り付くように建っている。家の屋根の上に、隣の家があるような急な勾配であった。
それも、家が密集しているのは港の周辺のみで、後は山と海しかなかった。
町から離れた場所にあるのは、民宿で夏はそれなりに人がやってくると聞いていた。
坂道を徒歩で上っていると、やがて道の舗装が終わった。周囲は草に覆われていて、道を隠しそうな勢いであった。港からここまで、人影もなかった。
「すごい坂……」
俺、遊部 弥吉(あそぶ やきち)は、この町で起きた事故の捜査で来ていた。
生葬社の店長、百舌鳥 人類(もず ひとる)もここに来ているが、民宿で既に働いている。俺は、島に同時によそ者が二人が増えたら目立つというので、数日、日付をずらして来たのだ。
生葬社は爆破され、今、新しい事務所に移るべくリフォームをしている。その期間、俺達はこの島で連続で起きている事故を捜査するように命令されている。
坂道の途中に、小さな小屋のような家があった。そこの戸を叩くと、後ろから男がやってきた。
「こっちだよ」
タオルを首からかけ、タンクトップに半ズボンの男は、後ろにある小屋の方に俺を案内した。
後ろにあった小屋は、表の小屋と比べるとまだ頑丈にできていた。小屋の半分以上は、工房になっていて、そこには干した器が並べられていた。
小屋の一角に、キッチンのような場所があり、男が麦茶を出してくれた。
「俺は、岩城だ」
ここでの協力者であった。
岩城の職業は陶芸家で、俺は、表向きそこに弟子入りした事になっている。
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