『誰かが誰かを殺す時』

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 そして、安理子の死から三か月後に、今度はこの島の子供が、全く同じように溺死して浜に打ち上げられた。今度は、島民揃って岩城が殺したのだと言った。しかし、その時、岩城は陶芸の個展で東京に居た。警察が来て捜査したが、岩城に怪しい点は無かった。岩城の家族も東京に行っていて、この島には来ていなかった。  むしろ岩城を異常に疑う島民に、警察は安理子の死因を調べ始めていた。そして、安理子の死因を調べていた警察官が、船から落ちて行方不明になった。  その半年後、同じ浜に身元不明の遺体が、二つ打ち上げられていた。  全く関係が無いのかもしれないが、同時期に安理子の担任が流産し、そのショックで自殺してしまった。  それだけならば、生葬社の仕事ではないのだが、安理子の異物(インプラント)が届けられ、その報告書が作成された。安理子の異物(インプラント)には、安理子が亡くなるまでの記憶が書かれていた。  亡くなる前に安理子は、どこか知らない町に行っていた。住んでいた島ではなく、人の多い沢山の店が並ぶ街であった。宝石や装飾具、沢山の服が売られ、レストランも並んでいた。そのような店は、その付近にはどこにも無かった。  しかし、その後、安理子の記憶は曖昧となり、山の中を逃げ回り、海へと落ちる。異物(インプラント)の中に記録されない記憶とは何であったのか。生葬社の本来の調査目的は、記録されない記憶にあった。 「岩城さんは、どうして引っ越さないのですか?」  辛い記憶しかない島に、住んでいる理由が分からない。 「安理子が何故死んだのか?どこで死んだのか、知らずにいられない……」  何故、守れなかったのか?何故、自分はこの土地に住んでしまったのかと、何故は永遠に続くであろう。 「俺も、調べます。でも、その前に、小屋を直します。明日、周囲に疑われないように、俺に仕事を教えてください」  捜査に来たと言ったら、島民が身構えるのは分かっていた。なるべく、自然に生活しながら捜査を進めてゆきたい。  窓から小屋が見えていた。夢が途中で終わったように、小屋も途中で放置されていた。 「まず、住処をどうにかしないと」  岩城に大工道具と、掃除用具を借りると、小屋に入ってみた。
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