『誰かが誰かを殺す時』

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 屋根はどうにかあった。雨が降ってみないと分からないが、とりあえず野ざらしではない。高床式になっていて、床は一枚の板しかなかった。床は、所々で板の隙間が空いていて、下の草が見えていた。  床板も、ただの角材と平板のようなもので出来ていた。俺は、床材が購入されているのを確認し、壁も化粧板を見つけた。  タブレット端末を取り出すと、廃墟の姿を撮影してみた。そっと丼池に送信すると、即答で返事が来ていた。 『すぐに手伝いに行きます!』  来なくても自分でどうにか出来ると、返事をしたが、嫌な予感がしていた。  その日は、掃除のみ行い、寝袋で寝た。  次の日、岩城は俺に最初の仕事を教えてくれた。山から一輪車で、土を運んで来る、その土をひたすらこねるのだ。でも、岩城のように土をこねる事ができない。必死になって真似ていると、全身が痛くなってしまった。 「習得に時間がかかるからな。焦るな」  土は練ればいいというものではなく、空気を抜き、均等にする。  昼飯は、炊飯器のご飯と缶詰であった。  岩城は、島民とトラブルを起こしているので、買い物をしに行くと、店を閉められてしまうのだそうだ。  缶詰と米は、岩城の妻から周期的に送って貰っているらしい。 「俺の分は、自分で持って来ないといけませんね」  俺も米を送って欲しいと、誰かに頼むしかないが、頼める相手がいなかった。 「いっそ、食べないでもいいか……」  どういう訳か俺は、十日程度食べなくても、そう苦にはならない。失業中も、一日一食でしかもご飯にふりかけだけで充分であった。  三時まで土をこね続けると、その日の仕事は終了となる。 「では、行ってきます」  俺は、地図を頼りに島を歩いてみた。  まず、安理子の通った小学校を見る。斜面の上の方にあり、小さな木造の小学校であった。教室は四個で、何学年かが一緒に勉強していたらしい。体育館と、音楽室、それに図書室はある。  小さなグランドからは、海が見えていた。後ろは斜面で、道は学校で行き止まりであった。  この島には、小学校までしかなく、中学からは下宿して通うようになっていた。  小学校を通り過ぎると、町の中心部は過ぎたようになる。ここから先は、民宿が二軒と、段々畑があるだけであった。
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