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春道の彼女らしき人が出てくると、キッチンの方へ消えて行った。やはり、女優か何かだった気がするが、あまり、いい噂のない女性であった。
他に、この家にはお手伝いさんも来ていた。
「治療ありがとうございました」
比奈が俺の手に包帯を撒こうとしてくれたが、血は大量に流れたが、たいした怪我ではないので遠慮した。明日も、土をこねなくてはいけないので、テーピングだけでいい。
「よお、ボール蹴る相手してよ……」
俺は首を振ったが、ボールが上から降ってきた。俺が思わず蹴って返すと、口笛を吹いていた。
「……少しはやった事があるみたいだし」
「中学だけです。高校では、テニス部」
俺は、頭を下げて礼をすると、庭から出てゆこうとした。しかし、春道に手を掴まれてしまった。
「どうしてサッカーを辞めたの?」
春道は、俺の手を離そうとしない。そのまま引かれて、浜辺まで来てしまった。
「高校のサッカー部が、喧嘩?体罰で出場停止だったからです」
大学でもあれこれスポーツはしたが、中学のサッカー程には熱中しなかった。
「はい、砂浜でサッカーね」
春道がボールを蹴ってきたので、砂浜でサッカーの練習をしてしまった。砂浜は、足元が緩いので、結構、大変であった。ダッシュをしようとしても、前に思うように進まない。しかも、ボールが弾まない。
「……これ、大変ですね」
「だろ?いい練習になる」
春道は、本当に上手い。それはプロであるので当たり前であるのだが、見ていると感心してしまう。
「遊部君は、ここで何をしているの?」
「陶芸の修行です……」
目はボールを追っているので、会話が途切れ途切れになる。
ボールが膝に当たると、激痛が走り、座ってしまった。
「あ、転んだ怪我か、見せて」
見せてと言われても、ズボンの下であった。裾をまくって見ると、膝が腫れ上がってしまっていた。
「……ごめん、この足でサッカーさせてしまって……」
春道は何も悪くない。
「湿布とテーピングをしておくといい」
春道が、肩を貸してくれようとしたので断ると、背負おうとしてきた。
「歩けるから大丈夫」
春道が手を繋いできたので、俺は驚いて立ち止まってしまった。
「……逃げられたくない……」
先を歩いている春道が、呟いていた。
第二章 飛び込みの丘
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