『誰かが誰かを殺す時』

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 春道に手を繋がれて、比奈の元に戻ってしまった。比奈は、ニコニコと笑いながら、再び救急箱を持ってきた。 「比奈ちゃん。テーピングは俺がするからいいよ」  比奈が俺を少し睨む。 「隆哉に捕まってはダメよ。早く逃げてね」 「そうします」  今度は春道が、俺を睨んでいた。  春道の姉弟は仲が良いが、春道の彼女はマイペースで自分のしたいようにしていた。彼女は二階の部屋を改築し自室にすると、そこに籠って出て来ない。  春道の彼女は、時折、キッチンに来て、届いている注文の品を確認すると、又自室に戻る。  春道の彼女は、俺が治療していても、視界にも入らないようで無言で通り過ぎて行った。半ズボンから覗く真っ白な長い脚は魅力的だが、人間的にはあまり魅力はない。 「彼女、仕事はいいのでしょうかね?」  こんな田舎に引き籠っていて、大丈夫なのであろうか。 「ああ、元々、そんなに仕事の多い人ではないからね。まあ、飾りだよね……俺は、夜の相性で決めたしね」  春道もあっさりしていた。  比奈の彼氏の方も、芸術家肌で誰にも馴染もうとしていなかった。作詞、作曲をしているのだそうだが、俺にはよく分からない。 「では、治療をありがとうございます」  俺が帰ろうとすると、春道が携帯電話を出してきた。 「番号を教えて」 「すいません、俺、持っていないのです」  春道と比奈が、同時に驚いていた。 「本当?ウソだよね」 「変な電話や、ストーカーまがいの電話が連続してきたもので、解約して、壊して捨てました」  そこで、妙に納得されてしまった。 「そうだね、それはあり得る。遊部君、少し難ありだよね。ここの二人みたいに、バラには棘どころか毒もありそうな人ではないのに、その姿ではね……」  携帯電話がないことには、納得してくれたようなので、帰ろうとすると又手を掴まれた。 「又、会いたい。どうすればいい?」  俺は比奈の顔を見た。比奈がしきりに首を振っているので、俺は頷く。 「俺は、見習いの身分なので、自由はありません。今日はたまたま、時間が取れたので探索していただけです。だから、これでお別れです」  春道が手を離したので、俺は庭から外に出た。そのまま振り返らずに庭を出ると、ここがどこであるのか、地図で確認する。  このまま町まで進み、港から山に登るのが一番早そうであった。
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