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来た道を下り国道へと合流するころには市内へと向かう車のヘッドライトの光が連なっていた。
ノロノロと進む中、ピコン、ピコンと電子音が鳴ってバッグの中からスマホを出す。何となく相手が寛之さんだと見当がついていた。
《お疲れ!》
《これから会社の飲み会。ダルい》
メッセージの中の寛之さんは少し子供っぽいところもあって、そのギャップにますます惹かれていく。
《お疲れサマです。飲み過ぎないでくださいね》
一言だけのつもりが既読がすぐについて返事が返って来た。
《部内の送別会だし明日も仕事よ?飲むつもりもないよ!早く終わらせたい》
クマが涙を浮かべるスタンプが来て自然と頬が緩んでしまう。面白いスタンプを返そうと画面に夢中になって隣の存在を気にしていなかった。
「なぁ、何か食べたいものある?」
不意に話しかけられて顔を上げて、寛之さんにピコンと呼び戻された。
《唯に会いに行けるかな?》
昨夜の離れ難さを思い出して、どきんと鳴った胸が熱い。
「…帰りたい顔をすンなよ」
画面から顔を上げた私を見つめるトキから顔を逸らせた。
「ちが、うし」
「ヤラシー」
寛之さんには悪いけど既読スルーを許して貰おう。隣からの大きなため息を聞いてバッグを大きく開いてスマホを戻す。
「そうだ、やっぱりこれは…」
今日の目的を思い出して運転席に顔を向けた。
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