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離れそうで離れない、その感触とチョコレートの香りに、初めてだから…もっと感情がバラバラになってしまうと想像していたけれど。
誰に教えられるでもなく、こういう時は自然と瞼が落ちるものなんだと、当たり前のことだと受け入れた。
「唯…」
寛之さんにすっぽりと包まれている安心感と呼ばれる名前の響きがくすぐったい。
もうしばらく暖かさに包まれていたくて、背中に回した腕に力を込めた。
「ごめん、こんな…強引なことして。当たり前なんだけど、成長を目の当たりにして揺さぶられてたんだ」
応えるように抱き寄せてくれた手の暖かさが伝わってきて、夢心地で寛之さんの言葉に耳を傾ける。
「久しぶりに会ったら…
子供だと思ってたのに、駆け引きしてるのか、何か…試されてるのか。どんどん離れていこうとするから…マジで焦った」
ドラマや映画の愛の告白よりも、現実の今が私の胸を鷲掴みにしていた。
憧れの人の腕に囲まれて、素直な気持ちを飾らない言葉に込められることがこんなにも嬉しいんだと知った。
愛している、とか。君だけだ、よりも。
「唯、離れようとするなよ…」
背中に回した手を下ろして少し身を捩ると上体を起こした寛之さんと眼が合った。
「はい」
私の返事に満足して微笑むと、私の右手を自分の口元に当ててくれた。
それはママを喪って、初めて感じた充足感だった。
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