それは、小さくて確かな衝撃

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想定外の帰宅時間だった。唯の住む街から自宅まではタクシーで40分程度。深夜の街を走るタクシーの中で今夜の自分は自分ではない気がしていた。 自室の部屋の扉を閉めて一息つく。吐き出しのカーテンを閉めたとき、夕方脱いだ喪服が片付けられていることに気づいた。 リビングで彼女の母親の七回忌があると両親に告げたのは数日前のこと。 「四月からは社会人になるし、これで一区切りつくわね」と母は呟いて、父は静かに新聞を読んでいた。 「7年、かぁ…」 実の無い関係を指折り数えて、その長さが思わず声に出た。年相応のお洒落もしない相変わらず地味で真面目な姿を見たのは去年の夏だった。 偶然立ち寄った駅前の本屋で就職が決まったからアルバイトをしているんだと、はにかむ笑顔は子供の頃と変わらなかった。 そう、ずっと唯は変わらなかったから。 今日もその姿は変わっていないと疑わなかったのに。 たった半年見ないだけで、今日の唯は華奢な姿で大人びた雰囲気で桜の木の下で俺に微笑んだ。 自分との年齢の差、経験の差を考慮すれば、冷静でいなければならないに。 両親は唯の話題になった時は必ず「大人の勝手に振り回されて…」と言葉が続いたのに。 小さくて柔らかな感触を確かめて甘えさせてやりたいと本能が湧く。 今日、また彼女に会うつもりでいることを含めて両親にどう話すべきか… 数時間後には仕事に行くことを考慮すると早いうちに休まなければならない。 だけど未だ気が立っていて眠れそうにない。
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