それは、小さくて確かな衝撃

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改めて見渡す台所は小ざっぱりとしている。必要最低限の家電と小さな家具の配置だけど、そこに生活している唯の日常を感じることができる。 手を伸ばせば必要な物が手に届くように工夫してあるようで、こういうのいいなと思ったのは沙月との付き合いでは見えなかった景色だからだろうか。 沙月との付き合いは結婚の現実から目を背けるようなもので、愛や夢を語ることはあっても手料理を食べることは無かった。 「このくらい食べれますか?」 「うん、ありがとう」 振り返る唯から茶碗を受け取ってテーブルに着いて、顔を見合わせて微笑んだところでインターフォンが鳴った。 「誰だろ」と呟いてまた席を立つ唯を目で追いかける。急かすように再度鳴った音や扉を開ける気配にセールスなら対応してやろうと考えていたのに。 「…あ、……たの?え、よかったのに…でしょ。……は?ふふ、うん」 来客に警戒していない唯の声を聞いて止めていた箸を動かす。昨日は見えなかった部屋をぐるりと見渡しながら唯が戻る気配はまだない。 「……か?……ろ?」 殆ど食べ終えたところで聞こえた声は野太い低音で、驚きに全ての動きを止めた。 「…って!!…だから、もぅ!」 焦るような声色を察知した時には玄関に向かって歩いていた。
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