それは、小さくて確かな衝撃

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暗い玄関では細かなことがわからないけれど。玄関扉が閉まらないように身体で止めるその人は、しっかりとした体格で上背も俺を超えている気がした。 俺の気配に気づいた客人の気配でこちらを振り返る。 「ひゃっ…」 ヤバい、来た!と悲鳴みたいな小さな声はそういう空気だ。唯の肩が跳ねたのを知って眉に力が入るのを堪えた。 二人の空間を邪魔されて面白くないのに、邪魔してるのが自分だとしたら恥ずかしい。 「どうしたの?」 ここは男の余裕で声穏やかに、壁に触れる手でスイッチを入れようとして電球の交換をあと回しにしたことを思い出した。 「何だよ、電気切れてんのか?」 「だって…私一人だし」 「遠慮なく言えって。いつも同じこと言わすなよ」 「…わかってるよ。でも、困ってないから…」 自分の登場を無視する目の前の光景に言葉が出て来ない。二人の仲の良さは勘違いでも何でもないし、部外者は間違いなく俺の方だ。 大人しく奥で待っていれば良かったのか、いや、このまま帰ってもいいのかも知れない。 「あ、あの。友達で…」 突っ立ってる俺に紹介するつもりで右の手のひらを傾ける。 「時野 です」 「あぁ、どうも。長谷です」 別に知らなくても困らないが、社会人としてのマナー程度の挨拶くらいはできる。
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