それは、小さくて確かな衝撃

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スーツの上着を羽織り、見送りは要らないと伝えるつもりで唯を振り返ってその姿に驚いた。 「…んなさい、ごめ、んなさ、ぃ」 身体を震わせてポロポロと涙を零す。 腹を立ててるつもりはなくて、ただただ居心地の悪さから逃げ出したいだけで、強い言葉を使ったつもりはなかった。 「ぃかないで、くだ…い。お願い…です、ご、め…なさ……」 頬を伝う涙は顎先から胸元へと落ちていく。 慰めの言葉も出て来なくて持って頂いたカバンを下ろして唇を震わせながらも謝罪する唯を自分へと引き寄せた。 「傷つけたなら謝るよ、唯ちゃん、ごめん」 腕の中に収まる身体のか細さは昨日知ったばかり。 こんなに泣き虫だとは知らなかった。 「行、かな…いで、ください」 トン、と何かが床に落ちる音の後でスーツの上着が引きつる感覚がする。強くなる脇腹の違和感の正体は唯が握りしめてるからだと分かれば、頭のてっぺんに頬を寄せて優しく言い聞かせてやる。 「うん。うん、わかったよ。行かない。ここにいる」 背中に回した手で後頭部の髪の毛を梳く。腕の中にいる温かさについて、これを愛おしいと言うのかもしれない。 「唯ちゃん、ちゃんとご飯を食べて。料理上手だよな、美味かったよ」 身じろぎして濡れた顔を手の甲で拭う姿を見下ろして、睫毛の長さに惹かれるように腰を屈め頭を傾ける。 「唯…」 どこもかも濡れて塩っぱい肌に唇を押し当てた。
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