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一人に戻った部屋でどのくらいぼんやりとしていたんだろう。ここが自分の居場所だと認識して、何度目かの深呼吸でやっと心が落ち着いた。
視線の先の時計は日付を超えている。
就職までの時間は何にも縛られない最後の自由時間だと、誰かが言っていた。予定の無い毎日は規則正しい生活リズムが乱れがちで、昨日と今日は特に内心をかき乱されて眠りは浅い。
「どうして…あんな」
あんなことになったんだろう。
一人の部屋でも口にするのは躊躇われた。仏壇の写真を見ることが出来ない。
思い出そうとするだけで頭に血が上って、得体の知れない感情に鼓動は早くなる。
「…どうして、もぅ……」
開かない玄関ドアへと呟いて、それからじわりじわりと首を動かす。
寛之さん……
二人の身長差から初めは目一杯顎を上げていたはずだった。いつしか見つめ合う目の高さに差は感じなくなり、最後には私が寛之さんを見下ろしていた。
フローリングに膝をついていたせいで膝小僧が痛い。顎から首筋、うなじへと感じるベタつき?…唇は腫れているかもしれない。
二人分のマグカップと小皿を片付けてから、ときが持ってきた紙袋の中を取り出して今度は溜め息をついた。
自分宛てだと言われ、寛之さんに悟られたくなくて受け取ってしまったけれど、こんな上質なリボンを安易に解くのが躊躇われた。
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