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『親父と面識あったっけ?』
面識と問われて記憶を遡る為に目を閉じてこめかみを押さえた。中年の男の人は内心では苦手で、思い出すのは面接の情景ばかり。
10数人いた中で3人ずつ呼ばれて会議室に入ってガラス張りの部屋は空調が効いていて、遥か遠くまで広がる視界と近隣のオフィスが階下に見えた。
目の前にいるスーツの人達の余裕と並べられたパイプ椅子とのアンバランスに緊張感が煽られて面接時間はあっという間に過ぎた。
「ん…面接の時にいたよね?えぇっと…」
面接官の中の一人だと記憶しているけど、細かなところまでは覚えていない。
『個人的な知り合いとか、ない?親とか親戚の家とか…』
「そんな…」
あるわけ無い。親は他界しているし、親戚との付き合いもない。
『あの人の…親戚とかも無い?』
私が結婚していることはトキも知っている。形だけの関係の私が寛之さんの親戚を知るはずがない。
「そういう話はしたことがなくて…。聞いてみないとわからないの」
『聞いてみてよ』
彼らしくない強引さに戸惑って「あれは、明日会った時に返すね」と小さな声になっていた私にトキは肯定も否定もせず、また明日と言うと通話を終わらせた。
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