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そうこうして、しばらくは海で遊んだ。楽しい時間はあっという間に過ぎていく。気が付けば、かれんいわく緑っぽかった海も黒に近い濃紺と、遠くからの夕焼けに、一部がオレンジ色に染まっていた。
俺はトイレの洗面所の水で髪や体を洗う。
「ダメだ。べとべとが全然取れない」
海に出てからずっと体がべとべとしていたので、それを落とそうと思ったのに無理だった。諦めて外に出ると、女子トイレの方で同じく体や髪を洗っていたかれんが、一足早く諦めたらしく、ベンチに座っていた。
「石鹸でも持って来ればよかったね」
かれんが自慢の白い肌を撫でているが、表情は芳しくない。べた付きは取れなかったようだ。
隣に座ると、どかりとわざとらしい音を立ててしまった。疲れ切っているせいか、体が重たい。目の前には砂浜と海が広がっているが、見ている余裕なんてサラサラない。
「こっちの海には太陽が沈まないんだね」
けれど、かれんは違うらしい。海をじっと見ながら、そんなことを言った。
「そりゃあな、南に太陽は沈まねぇよ」
疲れのせいか、ついそっけなくそんなことを言ってしまう。そう、とかれんに寂しげにつぶやかせてしまった。
そうか。夕日が見たかったんだな。とやっと気が付いた。
「かれん。明日早く出るから、もう寝るぞ」
「もう寝ちゃうの? まだ夕方だよ? 夏の夜は長いんだよ?」
「夏の夜は短いっての。俺はもう疲れてるし、ちょっとの休憩だと思って寝ようぜ」
かれんは不服そうに眉間にしわを寄せるが、俺は構わず目を瞑った。
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