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坂道で自転車を登るのは、元気があり余った中学生か、坂を上り切ることを名誉か何かだと勘違いしている小学生がすることだろう。ましてや、今は八月一日の午前十時。しかも空は太陽以外に何もない快晴。太陽を遮るものは何もなく、太陽の熱を直接浴びているかのような炎天下だ。こんな中で自転車で坂を登っている奴なんて、頭の中まで煮えくりかえっているバカの極みだろう。
俺はそんなバカの極みなんかじゃない。けれど、汗だくでペダルをこいでいる奴は俺しかいなかった。
ただでさえペダルが重いのに、重たい荷物が背中にぴったりとくっついていやがる。あまりの重さにふらふらと蛇行しながら、俺は、俺達は坂を登っていた。
「ねぇー、まっすぐ進んでよー。お尻がするするーってずれて、私、落ちちゃいそうだよ」
耳元で後ろに乗せたかれんがぎゃんぎゃんと喚くような声で言う。なるほど、坂を登る前まではお腹の辺りまでびっちりとくっ付いていたはずが、今ではへっぴり腰みたいになっているのだろう、胸の辺りからしかくっ付いていなかった。
「るっせぇ! お前みたいな重たい荷物しょってんだ。んなこと無理だっての!」
荒れた息に乗せるように俺は力いっぱい言った。
「あー! 今重たいって言った。女の子に言っちゃいけないワードでしょそれー!」
負けじと叫び声が返ってくる。耳元で言われているものだから、頭の中までキンキン響く。
「人間は二リットルペットボトルでも二つ以上あれば重たいって感じるんだよ! その何倍もあるお前じゃ、誰だってそう言うぜ!」
「ひっどーい! 私これでも他の女の子よりも痩せてるんだから!」
「そいつは、よ~~く分かってるっての」
俺の胸の下あたりに回されている腕、押し付けられている彼女の胸は、確かに骨ばっていて、かれんが痩せていることが良く分かる。女性らしさが微塵も感じられないくらいだ。
と思っていたら、腹のあたりをギュっ、と力強くつねられた。
「いてぇっ!!」
一瞬力が抜けて、ハンドルのコントロールが利かなくなり、自転車を余計にぐねりぐねりと蛇行させてしまう。かろうじて転ばなかったのは、つねった本人のかれんに褒めてもらいたいくらいだ。
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