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「急につねるんじゃねぇよ!」
何とか元の通りに持ち直し、右肩に寄せられた頭に向けて言ってやる。
「今ね、すっごいエッチで失礼なことを思ったでしょ」
どきりとしながら後ろを振り向くと、わずかに彼女の耳の辺りだけが目に入った。
表情こそ見えないが、相当怒っているらしい。
さて、どう誤魔化すかと思って前を見ると、坂の終わりが見えてきていた。
「そ、そんなことはねぇって……ほら、もう登りきるぞ!」
「またそうやって誤魔化すんだから……」
そうですよ、誤魔化してますよ。しかし、こいつには隠し事なんて全然通じないな。
背後からのじっとりとした視線を浴びながら、坂を登りきる。ここは人の手が入った場所では一番高いところに位置する。
右を見れば、半島にそびえる山に木々が生い茂っていて、前方を見れば緩やかな下り坂がまっすぐ伸びて、途中からカーブを描いて山の陰で途切れている。
そして、この道路に沿うようにして、左側には一面の海が広がっていた。相当綺麗な景色だと思う。
「どうだ、綺麗だろ?」
かれんは俺から手を離して、自転車を降りた。それから、自転車の前に出て辺り一面をぐるりと見回し、こう言った。
「ん~、まぁまぁね。これぐらいの海なら、病院からでも見れたもん」
肩まで伸びた髪を揺らしながら振り返り、すまし顔での微妙な評価。
「うわぁ~、綺麗! とかそーゆー可愛げのある反応しろよな。俺の一番のお気に入りの場所なんだぞ」
まぁまぁとか、中途半端なこと言いやがって。不服だ。
「新太がエッチなこと考えてなきゃ、もっと感動したのになぁ~」
俺のせいかよ。まぁ、そんなことを言うかれんの表情は太陽みたいにらんらんと輝いていた。どうせ、口だけでこんなことを言っているんだろう。そう言う性格だ。
「ねぇねぇ、それよりさ。私、この坂をぶわぁ~!! って思いっきり下りたいな」
かれんは、次に下り坂の方を指さした。下り坂は非常に緩やかだが、如何せん距離がある上に、坂の終わりからはカーブになっている。
かれんの言う通りに下ってしまえば、間違いなく危ない。本当はそこまで危なくないのかもしれないが、俺はどうも坂を勢いよく下るのが苦手なのだ。
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