旅のスタート

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「ブレーキ、禁止だからね」  かれんが命令をするように囁く。これは、ブレーキをしたらまたドヤされそうだ。覚悟を決めるしかない。  自転車がどんどんと下っていくにつれて、スピードも増していく。半分も下っていないのに、トップスピードになっていた。 「うわあああああああ!」 「きゃはははははは!!」  海と山に挟まれた一本道で、笑い声と叫び声の相反する声がこだまする。次第に近づいてくるカーブ地点を見据えながら、このスピードで曲がりきることができるのだろうか、とめちゃくちゃ心配していた。  それを他所に、かれんはとことん楽しそうだ。笑い声は絶えず、打ち付けるように顔面にぶつかる夏の湿った空気も、涼しい、気持ちいい、だなんて言う始末だ。  ホント、かれんには散々振り回される。まぁ、こうなること位は分かっていた。小さいころからずっとそう。でも、仕方がない。  俺は、そんなかれんのことが好きなのだから。そして、そんなかれんに頼まれたから、夏の昼間にこんなことをしているんだ。
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