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「ねぇ新太。今お財布にいくら入っているんだっけ?」
と、かれんは俺が手に持った財布を指さす。
「出る前にいろいろ買ったから……一万五千八百円」
財布を見れば、大体それ位が入っていた。朝の時点で財布に入っていた分をそのままだから、もともとそんなにあったわけでもない。だから、旅に出るのには明らかに足りないだろう。事前に言ってくれればもうちょっと工面して貯めておいたのに。
「そこから百六十円もなくなるんだよ? 随分もったいないと思わない?」
「たった百六十円じゃねぇか」
「百六十円も!! 買うんだったらもうちょっと安いところで買いなさい!」
まるで捨て犬を連れてきた子供を叱る親のような言い方だ。まぁ、資金不足感は否めないし、水分自体はある。仕方ない、俺が折れてやるか。
「はぁ、このまま我慢させられ続けたら、俺だって死んじまうよ」
「大丈夫、そんな簡単には死なないから。それより、早く行こうよ」
かれんは俺が言うことを聞いてくれて嬉しかったのか、頬を緩めて俺の手を引いて砂浜に向かって歩き出す。
「すっご~い! 海って近くで見ると結構汚いんだね~!」
海を始めて間近で見た女子高生の反応がこれである。
「せっかく俺が連れて来やったのに、感動しているのか落ち込んでるのか分からねぇ感想言うのかぁ、おい」
「ふふ、冗談。でも、海は青いって思ってたから、こんなに緑っぽいと思わなかったなぁ。緑でも冷たいのかな」
「さぁ、入ってみなくちゃ分からねぇよ」
かれんの言う通り、波打ち際に近づくにつれて、海は深い緑っぽい色をしていた。これまでに見てきた海は青々としていたから、そう思うのだろう。現に遠くの海は空よりも深い青色に染まっているのが良く見える。まぁ、ここに居るよりは海に入った方が涼しくなるのと色は関係ないけど。
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