465人が本棚に入れています
本棚に追加
玄関にいたのは間違いなく慎さんだった。
電話越しであんなに怒ってたのに……そう思うとこれは夢かと思うくらいに嬉しくて。
「来てくれたんすか……」
「あ……うん。一人暮らしだと大変だろうと思ってつい……でも、妹さんがいるなら、帰ります」
「いや、すぐ帰ります、バイトあるはずだし。ああ、でも移したくないから昨日も店行くの我慢したのに……」
顔を真っ赤にしてもじもじし始める慎さんの手を、逃がさないようにぎゅうっと握りしめてしまった。
せっかく来てくれたものを、なんですぐに帰さないといけないのか。
あ、でも風邪が移ったら申し訳ない……なるべく移らないようにするから帰らないで。
「……遊園地、行きたかった。けほっ」
「そんなの、熱が下がったらいつでも……」
つい習慣のように手にキスをしそうになって、咳が出て踏みとどまった。
いかん、それこそ慎さんに移してしまう。
「ちょ……お兄ちゃん?」
と、背後で妹の声が聞こえて、そうだった居たんだったと思い出した。
最初のコメントを投稿しよう!