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「それじゃ、行ってくる」
披露宴会場前のロビーで、慎さんが振り向いて小さく手を振った。
まだ少し照れを残した表情に、少しの不安も混じり合わせて複雑な顔だった。
だけど多分、俺の方がずっと狼狽えた顔をしていたと思う。
ついさっき慎さんに耳元で囁かれた言葉に、なんて返すべきかおろおろしているうちに、受付前まで来てしまって。
それ以上に、この披露宴を慎さんが嫌な思いをせずに乗り切れるだろうか、それも心配で。
どれだけ心配しても仕方ないことは重々理解していたから、結局出た言葉は。
「ここで、待ってます」
と、それだけ。
もっと何か、彼女を力づけるような言葉を言えば良かったとすぐに後悔したけれど、そんな言葉も浮かばなかった。
彼女の後姿を見ながら、背筋伸ばしてちゃんと歩けてるとか、ヒールに慣れてないけど大丈夫だろうか、とか心配は尽きなくて。
ただ、はらはらしながら見送った。
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