473人が本棚に入れています
本棚に追加
「えっ?! もう終わった?!」
その従業員が、近場のホームセンターの地図なんかを持ってきてくれたのはそれから三十分後だった。
近場、と言っても帰る方角とは逆方向で、三十分以上はかかりそうな距離があるからやはり急いで帰ってから慣れた土地で行く方がいいだろうと考えていた時、その従業員が「先ほど、披露宴も終わった様子です」と言ったのだ。
俺としては、披露宴が終わる前にはあそこにいたかったのに。
と、恨み言を言っても仕方ない。
急いで会計をして先ほどの会場前まで早足で向かうと、新郎新婦が退場している客に一人ひとり、挨拶しているのが見えた。
……やべえ。
あれ、慎さん通過したんだろうか。
ざっと周囲を見渡したが、慎さんもお姉さんも見当たらない。
すぐに携帯に電話をかけてみたが繋がらず、どこにいるのかとメッセージを送ってみる。
暫くしてから、「化粧室にいます」というメッセージを受信して、すぐに回れ右をした。
フロント近くに化粧室があったのを見つけていたから、そこのことだと勘違いした。
反対側にも化粧室があることに全く気付いておらず、そのせいで慎さんと行き違いになり。
ようやく姿を見つけた時にはあの男に捕まっていて、かっと頭に血が上った。
あの男にも、自分の間抜けさにも。
やっぱ、あの場所を動かなければ良かったのだ。
なんで、肝心な時に何やってんだ俺。
と、自分で自分を殴りたい気分だったが。
「謝ってもらわなくても、大丈夫。僕には、この人がいるから」
なんで?
どこいってたこの役立たず、とか泣かれるかも、と思ってたのに。
俺は今、抱き着かれながら至近距離で彼女の視線を受けていた。
それこそ熱のような、恍惚とした視線に見えた。
のぼせているようなその視線に、俺の方ものぼせそうで。
「結婚おめでとう。言い争ってたなんて騒ぎになる前に、早く戻ってくれないかな。この人を悪者にしたくないから」
怒りで頭が沸騰しそうだったのに、そんなものよりもっと熱い感情に支配されて、はっきり言って視線だけなら完全に二人の世界だ。
慎さんの背後にいるモノなんか、もうすっかりどうでもよくなった。
最初のコメントを投稿しよう!