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「あ、あの……。慎さん?」
「……聞きたいことは、幾つかありますが」
「はいっ、なんでも答えますんで、まず離れて……」
「いつの間に、篤と話したんですか」
「あ……えーと……」
「お正月。帰り際?」
いつの間にか、本当に二人きりになっていた。
っつっても、ロビーだし時折人は近くを通る。
いつもなら、彼女の方が恥ずかしがって離れるのに、今は逆に俺の方が狼狽えていた。
離れて、と頼んだのに未だ縋り付いてくる彼女の腰に、つい手を回してしまいそうになる。
彼女の身体の感触と匂いと声にくらくらして、正月の時の出来事も全部綺麗に白状させられてしまった。
「なんで僕に言わないんです」
「あの日慎さんかなり動揺してたし、俺もめちゃくちゃ頭に来てたとこだったから……謝罪なんて聞くか、二度と慎さんの視界に入るなお前も入れるなって勝手に言っちゃって」
「また、無茶苦茶なことを……披露宴があるのに」
「わかってましたけど、どうしても慎さんの視界の中にアレが侵入するのが嫌だったんです。あんな奴の話を聞かせるのも嫌だし。でももしかしたら、慎さんは謝罪くらい、聞きたかったかもしれないと……」
本当は、黙ってたことを悪いなんて思ってない。
あの日の真琴さんに対する無神経な言葉を、悟られたくなかったからそれで良かったと思ってる。だけど結局、怖い思いまで、させてしまって。
あいつに謝罪の気持ちなんてほんとは更々ないことを、慎さんは気づいてしまっただろうか。
例え不審者扱いされても、あの場にかじりついて離れなければ良かったと、情けなくて、申し訳なくて。
だけど彼女は。
「貴方が全部、わかってくれてたからそれでいい」
と言って、一層強く、抱き付いて来てくれた。
「怖い思いさせてすんません」
「ほんとです、来るのが遅い」
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