夜と傷と、【陽介目線】

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逃げ出さないでくださいね それは明らかに、あの日トイレに逃げ込んだ時のことを示していて、彼女があの出来事を随分気にしていたのだと気が付いた。 多分、俺が心配したのとは違う意味で。 自分のせいで俺が逃げ出したのだと、彼女はずっと気に病んでいたんだろうか。 このところの誘惑は、焦りだけでなく俺への申し訳なさ? 彼女がそんな引け目を持つ可能性は、ちょっと考えればわかることなのに。 多分、その重さを俺は理解してなかった。 『俺は大丈夫』 『暴走しそうになったら、噛みつくくらいしてくれないと』 そんな一言で納得できるようなものではなく、俺がそんな風に冗談めかして言えば言うほど、その引け目は大きくなってしまったのかもしれない。 「……だめだ。俺って馬鹿」 ソファに腰を下ろして、頭を抱えた。 焦らせてしまっているのは、全部俺のせい。 俺の為に、先へ進もうとしてくれている。 意味は同じだ。 どう受け止めるのが良いのか、が大事なのであって。 「どうすんだ、今夜」 あの、女物のワンピース姿の慎さんと、夜、ふたりきり。 傍に立つだけで、どきどきしたのに。 理性なんて保てるわけねえ。 やべえ、絶対押し倒しちまう、気がする。
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