夜と傷と、【陽介目線】

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「それでしたら、あちらのラウンジもございます。どうぞこちらへ」 従業員の態度は極めて柔らかく笑顔を絶やすことはないが、明らかに不審者かどうかを確かめに来ているような空気を感じる。 当然といえば当然だ。 確かに、待ち合わせならラウンジカフェなど利用する。 『じゃあ、”夕鶴の間”の前で待ち合わせな』 なんて、披露宴に無関係の人間がそんな約束の仕方はしないだろう。 不審者かどうか確認できるまで、目の届くところに誘導しようとしているのじゃないだろうか。 「ここの披露宴に出席している者が、今日は体調が優れなくて。途中で具合が悪くなってはいけないのでここで待たせていただいてたんですが」 「そうでしたか。それなら、まだ小一時間ほどかかるかと思います」 「え、そうなんすか」 「申し訳ございません、披露宴は特に時間通りに進むことが少ないのですよ。披露宴が終わり次第、ラウンジに連絡が来るように会場内スタッフに連絡しておきます。具合が悪くなられた場合も、スタッフが対応致しますので大丈夫ですよ」 どうぞ。 と、あくまでにこやかに、だが有無を言わせぬ口調で誘導されてしまった。 多分、宿泊客とかに苦情でも行ったのかもしんない。 変な奴がいる、と。
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