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「ありがとうございました」
診察台から降りて、歯科助手の女性に会釈をする。
ざっと診てもらった結果、虫歯もなく歯石取りだけして僕の方は終了だった。
問題は陽介さんの方だが、大丈夫だろうか。
パーティションで区切られているだけだから、何かあれば声が聞こえるはずだと思ったけど、僕が診てもらっている間は聞こえなかった、が。
「はい、麻酔効いて来たと思うので、今から抜歯しますよー」
という、声が聞こえた。
そうか。
抜くことになったのか。
大丈夫だろうか?
と、思っていると、何やら『どすっ』『ばたっ』というような音と。
「あが!あがががが」
明らかに陽介さんの声だった。
待合室の方へ戻る途中、陽介さんがいるはずの隣の診察台にちらりと目を向ける。
「高見さん!麻酔効いてるはずだから!暴れないで!」
あの『どすっ』『ばたっ』という音は、診察台を蹴っている音だったらしい。
顔は見えなかったが、長い足が足掻いてばたついているのが見えた。
「あがががが!!」
「高見さん!手、持たないで!余計危ないから!」
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