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「あ、あの。連れなんですが、お手伝いしましょうか」
助手は女性ばかりのようだし、大きい彼にあんなに暴れられては大変だろうと、先ほどの歯科助手に声をかけ診察台に近寄る許可をもらった。
「陽介さん!」
片腕で足を押さえながら、もう片方の手で彼の片腕を掴み声をかける。
すると、ぴたっ、と硬直したように動かなくなった。
「あ、あがががっ?」(ま、まことさん?)
「暴れたら余計時間かかりますから、じっとして。頑張って」
「あが……」
「帰ったら、約束の、ちゃんとしますから。ね」
それからは、彼の身体はがっちがちに固くなってはいるものの、暴れることはなかったが。
僕の手をがっしりと鷲掴みして、ぎゅうぎゅう痛いくらいに握りしめて来るのと。
『あがががごが!!』
という悲鳴の声は、暫く続いた。
治療しながら歯科医が話しているのを聞いた限りだと、どうやら虫歯になっている親不知が随分頑丈だったらしい。
途中で何度も麻酔を追加しながら続けられたが結局抜けなくて、歯茎を切開し歯を根本から砕くという、荒療治となった。
話を聞いているだけでも恐ろしいが、ちらりと並べられた器具を見てさらにゾッとした。
歯は、大切にするべきである。
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