嘉永三年 冬

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振り向くと兄弟子がドヤ顔で雪玉を握っていた。 『お前もな。』 『ぶへっ!!』 ひどい!!真正面から顔にやられた!! これはやり返すしかないわね!! 『しぐれぇ!!ぼくに雪玉集めて!!』 『りょっ!!』 せっせと雪玉を作っては白蓮に渡す。 『お前ら二人とか卑怯だろっ!!』 『とししたをいじめるほうがわるいのっ!!』 うりゃー、とか、やめろー、とか、まてー、とか、見てるだけなら楽しそうだよね。 だーけーどー!!! 寒い!!!!もう寒い!! そして、痛い!! 雪玉作る手が!!真っ赤になったよぉ~。 着物濡れて重い!! 袴が足に張り付いて冷たいっ!! 部屋の中に入りたいよぉ~。 子供が風の子なんて嘘だよぉ~。 八郎今、何してるかな? 火鉢の近くで勇さんと本を読んでるかな? あー。なんか、やる気なくした。 パタリ。 雪玉を作るのを放棄して雪の上に倒れてみた。 真っ白な空。 すごいな。どこまでも真ぁーーーーっ白な空。 当たり前だけど電線も電柱も高いビルもない。 空がすごく大きく見える。 いや、実際大きいんだけど。 白蓮達の声も空に吸い込まれて。 何だか、空に飲まれてるみたいだ。 『何をしてるんですか?』 ぽやーと空を見ていると不意に八郎が顔を覗き込んできた。 『はちろー?』 『はい。楽しそうなので来ちゃいました。それで、時雨くんは何をしているんですか?』 『んーー?なんか、そらがおおきくてね?こーんなかんじで、すいこまれちゃうのかなーっ?ておもってたの。』 真っ白な空にぐーっと右手を伸ばすと、温かい手に包まれた。 『ダメですよ。』 起こしてくれるのかと思って、引っ張ってくれるのを待っていたんだけど、八郎はわたしの目をじっと見て怖い顔をしていた。 『ダメです。たとえ、空が欲しくてもあげませんから。』 誰にも。と八郎は呟くとやっと引き起こしてくれた。 『ありがとう。はちろー?なんか、おこってる?わたし、そらはいらないよ?とらないからね!!』 八郎の目が暗く沈んだ気がして咄嗟にそう答えていた。
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