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新入部員の事も忘れて、俺はそんなことを呟いていた。
優しい風が頬を撫でてくれて気持ちいい、
「新入部員の皆さん、聞いてくださーい!」
突然耳に入ってきたその声に、俺の意識は現実に引き戻される。
見ると、優乃さんが新入部員に向かって話しているようだった。
肩あたりまでゆったりと伸ばした茶髪を揺らしながら優乃さんが部活の事について説明していく。
……優乃さんは可愛いってよりも、美人系な気がしなくもない。
説明が終わった後、その日は単純な顔合わせ程度で終わり、その後練習となった。
全員がメニューの元で行動し、練習が始まる。
「あ、矢部君。一緒に走塁の練習でもしないか?」
「パワプロ君……それは構わないでやんすけど、パワプロ君はそれで良いんでやんすか?」
練習の時間、メニューのノルマをこなした俺が矢部君を同じ練習に誘うと、矢部君は眉を八の字に曲げてそう問い返してきた。
まぁ、矢部君がそう尋ねるのも当然だ。
「パワプロ君はピッチャー……。走塁練習も大事でやんすが、投球の練習も少しはした方が……」
「……ご心配どうも。でも、今日はいいんだ」
そう、俺はピッチャー。
野手としての能力を高める走塁だとか、打撃練習だとかよりも優先すべき練習は多々ある。
でも……。
「今日は……いいんだ」
「……そうでやんすか。じゃ、いっちょ勝負でもするでやんす!」
過去の事が引っかかり、俺はどうしても、ボールを投げる気にはなれなかった。
そんな嫌な気持ちを振り払うようにして、俺はいつにも増して気合を入れて走った。
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