第1章 あの日のこと

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 それから週に二、三回顔を出すようになった美咲。  気付いてたかどうかは知らないけど、値段を安くしたり、サービスで何かを出すようになった俺。  自分からはペラペラ話さないけど、俺が聞いたことはほとんどはぐらかさないで答える美咲は、なんだか妹みたいで可愛かった。 「なんか今日はご機嫌だな」 「ご機嫌に見えます?」 「見えるけど」 「なんか嫌だなぁ・・・・・・」 「なんで?」 「いや、昨日会ったんですよ。例の彼と」 「やっぱご機嫌じゃん」 「それでご機嫌なんて、私が馬鹿みたいじゃないですか」 「美咲にも、そういうプライドあるんだ?」 「ありますよ、人のこと何だと思ってるんですか」  ちょっとムッとしたように、でも笑った美咲。  面白い。 「そうだ、この後俊太とカラオケ行くけど来る?」 「私もいいんですか?」 「うん、来なよ」 「じゃあ、お邪魔します」 「タケさーん」  カナに呼ばれてヒヤッとした俺。  カナに聞こえちゃったかな。  本当は誘ってやるべきなんだろうけど、なかなかそういう気分になれない。 「ちょっと行ってくる、ごめんな」  話の途中だったからそう言うと、美咲は「お仕事なんだから謝らないでください」と笑った。  そういう所がすごく可愛い。  ただ、もうちょっと、寂しそうにしてくれてもいいんだけど。 「タケさん、今日は?」  カナが「どこか連れてってください」と言い出した。 「今日は約束あるから、ごめんな」  カナに会話は聞こえてなかったらしい。  ほっとした反面、そうあからさまに悲しそうにされると、まるで俺が悪いことをしたような気分になる。  ここは誘っといた方が良いのかーー  でもあんまり、その気もないのに誘ったりするのもな。 「タケさんっていつも忙しいですよね」 「まぁ付き合いとか色々と」 「ねぇ、あの子もタケさん狙い?」  「あの子も」とか、どうしてカナは直球に物事を聞いてくるんだろう。  イコール「私も」だという事に自分できづいてないんだろうか。  「あの子って」って言い換えるだけで、全然意味が変わってくるのに。 「俺狙いの子なんて居ないよ」  あくまでカナの気持ちには気付かないフリをしてたのに、「私、私!」とカナははしゃいだ。
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