序章

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《 2 》  時刻は、午後六時を回る。  予想以上に早い到着。  全天からは濃い菫色が姿を消して、静かに夜の帳が降り始め、か細く響く虫の音が秋の名残を感じさせた。  結論から先に言えば、私の目論見は失敗に終わってしまう。  残念ながら、予約なしの一般開放は土日だけらしく、この日、噂の大望遠鏡を覗くことは出来なかった。逆に、突然の来訪者に係員の方が驚いていて、全く持って申し訳ないことをしたと思う。  仕方なしとばかり、記念に館内の展示物を一通り見て回ったが、隕石や模型ばかりでは気分の高まりを少しも晴らしてはくれなかった。  取り合えず、館内の星座版を自分の生まれた日時の夜空に合わせ、ああ、この日はこんな星座だったんだなどと思いながら、後味悪く天文台を後にするしかなかった。  そんなわけで未練はタラタラ。  後悔冷めやらぬまま駐車場へ戻ると、存外に、青年は笑って私の帰りを待ってくれていた。  彼にとっては、私の結末は予想通りだったらしい。  
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