序章

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   先程からのライトに照らされた景色を見ていても、山の草木と、稀に切り開かれた田畑を通り過ぎるが、集落はおろか民家すら見かけない。  それでも、かろうじてアスファルト敷の道路だけが、かつての賑わいを知っていた。 「うん、ここの田畑も長い間放置されてる。限界集落の現状はこんな光景ばかりかも。奥に住む人たちは、親戚やらを頼って、どんどん町の方に出てきてるよ」  青年が寂しそうに笑うと、すぐ脇から甲高いシカの鳴き声が聞こえ、突然の出来事に肝が冷えた。  思わず息を飲むと、肝心なことを聞いてないことを思い出した。 「そういえば、どこに向かってるんですか?」 「ん、すまん。どうにも説明を端折っていた。これから行く場所は俺に山の管理を頼んだ人の家だよ」 「なるほど、まだ人が住んでる場所があるんですね」 「何だい? 怪しい宗教の勧誘とか疑ってる?」 「いや、あの……」 「あはは、君は接頭語に二字のつく正直者だね」 「…………」 「しかし、昨今の列島情勢を見ていると分からない話じゃない。都会生活では隣人の顔を知らないのが当たり前だし、基本的にあそこで生きるには事なかれ主義を貫くことが必須かも知れないからね」  酷い言われようだが、限りなく正論に近い。  マスメディアも『人の繋がりを大切にしよう』とは声高に叫ぶけれど、彼らにしても、いざ自宅に帰れば自分の子どもには『容易に他人を信じるな』と教えている。世の中、漫画やドラマの中の様にはいかない好例。なにより、都会人のライフサイクルがその人間関係を当然として受け入れているので、田舎の濃い人間関係を煩わしいと感じるかもしれない。
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