序章

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 文化の継承。人間の集合体である街は、その街自身が一番輝いた時代の空気を残している、という内容で青年は話を〆た。 「…さて、あまり面白くない方に話が飛んだな」  そもそも、面白いか面白くないで信仰論を判断してしまうのもどうか。 「と、話を振ろうにも、俺が知る限り、この辺は『怪談』ぐらいしかない。困った困った」  努めて軽快に喋る青年の口に、意外な言葉が混じった。 「怪談、ですか?」 「ん、この辺は出るみたいだよ」 「…ええと、こんな何もない山奥に?」  すでに対向車線のない一本道。車道の両脇は見通しの利かない森の暗闇に囲まれていた。  確かに、乏しいばかりのヘッドライトに浮かぶ山道は暗く、不気味さが無いとは言えない。だが、心霊スポットと呼ばれる場所にありがちな、肌にじんわり来るような、一種独特の異質な雰囲気は感じられなかった。  私は青年を不思議そうに見た。 「ああ、謂れも何もないわけじゃない。確か、この近辺には道満塚とかいう遺跡があったはずだ。名前に聞き覚えはないかい?」 「いいえ、さっぱり。道祖神のようなものですか?」 「いんや、確か関係無いはずだよ。しかし、道祖神なんてよく知ってたね」 「? …そうですか?」
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