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だが、運転手の行動は私の予想を裏切った。
軽トラはウィンカーをチカチカと点灯させると、私の乗る岩場の真横に車体を止める。
「おい、そこのヤツ」
窓から顔を覗かせたのは奇妙な風体の青年。年齢は私より少し上くらいに見えた。
「おい、ここらは熊が出るんだ。徒歩は危険だぞ」
「―――え。熊、ですか?」
呆気に取られて間抜けな返事をした私を見て、青年は少し困った様な微笑みを浮かべた。
「ああ、ここ二三日前から町内放送でも目撃情報が流されてる。昨日だって近くの民家の干し柿が食われたらしいし。そんで、庭の木守に飽き足らず、軒先の干し玉葱や唐辛子なんかも咬み千切ってたって話だから余程に腹ペコなんだろうって話だ」
「…………」
「実際、今年は夏の天候のせいで山の実りが少ないみたいだし、まあ、仕方無いと言えばそれまでなんだが」
なんとも不用心な自分を省みて、私の背中にぞくりと嫌な汗が流れた。
「あの、やっぱりお願いしても」
「ああ、乗ってけ乗ってけ」
私が車内に乗り込むと、青年は「自分はAだ」と名乗ったので、私達は軽く自己紹介を交わした。
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